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Big Crane Petroglyph, Comb Ridge   Pastel on paper   Akiko Hirano


平野明子 & Tim Wong

彼女が広い斜面を尾根に向かって歩き始めた頃には、雨は止み、滑らかな岩の上に、輝くビーズのような浅い水溜まりの列が残っていた。頭上高く、コーム リッジ(100マイルの長さで続く鋭鋒の岩山の列)の巨大な白いドームが手招きをしている。彼女は特定のペトログリフ(岩絵)を探すために再びここにやって来た。昨年、彼女はこの辺りを疲れ果てるまで行き来しながら、それを見つけることが出来なかった。今日、彼女はそこに近づいていることを知っていた。

 

尾根の頂上のすぐ下に、彼女は深い赤褐色の砂漠漆で覆われた突出した崖を見つけた。ペトログリフを見つけるに適した場所。彼女はその崖に向かって傾斜する長い滑らかな岩の傾斜路を登った。その途中で、彼女は浅い洞窟の中に隠れた古い住居の残骸を見つけた。石とがれき、しかしペトログリフはなかった。彼女は赤みを帯びた断崖面を探しながら歩き続け、その最も高い遠端に到達したが、まだ何の痕跡も見えなかった。又もや無駄な検索をしているのだろうか?引き返そうとする直前に、彼女は上を見上げ、約20フィート上にある壁に凹面の張り出した岩肌を見つけた。その下にある貝殻型の鉢には、見事な”鶴”のペトログリフがあった。

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The Crane   Photo  Tim Wong

"鶴”はほぼ実物大で、暗い光沢の壁面に描かれ、その下のピンク色の砂岩のきれいな線を浮き出すために慎重に突っつかれていた(石などで壁面を叩いて彫刻する)。長い首はすっと高く伸び、横に傾いた力強いくちばし、広げた扇のように翼を広げ、長い風切羽を見せている。あたかも崖面から飛び出すかのように、長い脚が前後に動いているように見える。すべての線は簡潔、周到に描かれ、古代の芸術家の真の傑作だ。左翼の下には、円に包まれた謎の球体が横たわっていた。それは彼女の卵?それとも太陽か満月?そんな事を考えている間、彼女は鶴と月についてのアメリカ先住民の伝説を思い出した。大昔、兎は鶴に月に連れて行って欲しいと頼んだ。鶴は兎を足にぶら下げて長い旅をした。それ以来、兎は満月に見られるようになり、鶴の足は永遠に伸びていた。

彼女は"鶴”の下の岩の上に座り、広大な風景を見渡していた。”鶴”は、長さ 100 フィートの岩のキャンバス全体にある唯一のペトログリフだった。明らかにその場所は慎重に選ばれていた。その高い位置から、彼女は下の峡谷とはるか東のコームウォッシュの素晴らしい景色を眺めることが出来た。前年、ペトログリフを探していた時、彼女はその尾根高くにある洞窟に、アナサジインディアンの住居の遺跡を発見した。”鶴”は、下の峡谷から尾根の頂上に通じる狭い滑らかな岩の通路を見守っていた。古代の芸術家が”鶴”のペトログリフを作るきっかけとなったのは何だろうか?アメリカ先住民は、"鶴”を幸運と幸福のしるしと考えていた。彼女は自分の考えを想い巡らせていた。

 

彼女は日本で幼い頃、希望と平和の象徴である折り鶴をよく折っていた。何十年も海外に住んでいる彼女は、鶴の折り方を忘れてしまった。彼女の父親が亡くなった時、年配の日本人の友人が一 枚の紙を折りたたみ、翼端から翼端までシームレスにくっ付いて、あたかも一緒に飛んでいるかのような二 羽の鶴を作ってくれた。机の上にぶら下げていた折り紙が、どのように作られているのかわからず仕舞いだったが、彼女に安らかな思いをもたらしてくれた。

 

翌年、彼女はニューメキシコ州のボスケ デ アパッチ野生動物保護区を訪れた。そこでは、数万羽のサンドヒル クレーンが冬を過ごす。ある肌寒い朝、太陽が湿地帯の霧のベールを突き抜けると、サンドヒルクレーンの雲が水辺から持ち上がり、鳥はぐるぐると旋回しながら、上昇する熱気の中で高さを増して行く。ゆっくりと動く旋風に吸い込まれるかのように、ますます多くのサンドヒルクレーンが渦巻きの円に加わり、位置を求めて押し合い、騒々しく鳴いていた。彼女は頭を後ろに傾けて、羽ばたく翼の塊がどんどん高く上昇し、白い羽が夜明けの光の中で点滅し、高い雲の中で小さな白い斑点へと薄れて行き、鳴き声がほとんど聞こえなくなるまで見つめていた。と、突然、あたかも原始的な秩序に従うかのように、円は引き裂かれ、幅の広いくさびに引き込まれ、2本の長く伸びた落ちこぼれ群の腕を引きずり、まっすぐ北へと向かった。

 

穏やかな笑顔が彼女の顔に広がった。彼女は目を閉じて深呼吸をし、春の訪れを知った。

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Sandhill Cranes, Dawn   Photo  Tim Wong 

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