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Cliff Ruin   Pastel on paper   Akiko Hirano 

スターゲイザー 星を見つめて
平野明子 & Tim Wong

黒衣(くろえ)は仰向けになって空を眺めると、太陽が西の地平線上に低く沈んでいた。 スリックロック(滑らかな岩)は彼女の背中に心地よかった。子供の頃、屋根の上に横たわり、夏の雲を眺めていた時の背中のぬくもりが思い出された。大昔のこんな些細なことを覚えていたとは。。。。。 彼女は首を後ろに傾け、背後のオレンジ色の崖を見た。アナサジインディアンは崖の突出部の下のアルコーブ(洞窟)に2階建ての家を建て、あたかも岩を彫って造ったかのように周りの環境によく溶け込んでいた。 正面の壁は、種々の色の慎重に形作られた石で建てられ、T 字型の入り口は高く設定され、アクセス不可能。 住居の一角は面取りされ、上層部からの覗き穴や水抜き穴のある凹んだ角が作られていた。 この住居は激動の時代の要塞として建てられたが、住んでいたのはせいぜい 2、3 世代に過ぎない。

 

住民たちはそこで暮らしながら何を見ていたのだろうか、と彼女は不思議だった。 崖の上からは峡谷の上も下もはっきりと見えた。 太陽は峡谷の入り口から昇り、西のベア・イヤーズのツインの丘の後ろに沈む。 夜の星はさぞかし素晴らしいだろう。 峡谷を登っていた時、彼女は暗い隅にある岩面彫刻のパネルの前を通った。 黒く光沢のあるニスを突いて、いくつかの螺旋形のピンク色の砂岩が露出していた。 周囲のベニヤが剥がれ落ち、渦巻く雲のような明るい模様が残っていた。 どういうわけか、このパネルはゴッホの有名な星月夜の絵を思い出させた。 それとも渦巻く銀河だろうか? もちろん違う! 彼女は自分の不条理な解釈がおかしくなり、さらに先へと進んだ。

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Spiral Petroglyphs   Photo   Tim Wong

日没直後、峡谷は急速に冷えた。 彼女は目覚め、空が暗くなっていることに気づいた。 今夜は月が無い。 星が次々と輝き、峡谷の上に浮かぶスパンコールが散らばったベールのように空を覆った。 彼女は馴染みのある星座を探した。獅子座が頭上で明るく輝いていた。 ヘビのように南の地平線上に低く輝くヒドラ(水蛇座)。 彼女は振り返った。 北斗七星と北極星が彼女の方向を確認した。 彼女はまだ見ることが出来なかったが、北斗七星の近くで、過去 2,100 万年の間ずっとそうであったように、明るい光が毎秒 186,000 マイルで彼女に向かってスピードを上げていた。 数日後には地球に到達するだろう。

 

2023年5月19日、日本の天文学者、板垣公一氏(1) は北斗七星の柄の近くに「新しい」超新星の光を発見した。 約2,100万光年離れた風車銀河の星(おおぐま座)が爆発した。 峡谷で星を眺めいた夜のことを思い出しながら、黒衣(くろえ)はこのニュースを大局的な視点で捉えようとした。 超新星が爆発したとき、1億7000万年以上にわたって地球を支配していた恐竜は、すでに約4400万年も前に絶滅していた。 爆発による光は、私たちの遠い人類の祖先であるルーシー(2) が東アフリカの草原を歩くまで、1,800万年にわたって暗い空虚を駆け抜けた。 地球に到達するにはさらに 300 万年かかったので、ルーシーはその光を見ることはなかった。 その間、ルーシーの親戚のほとんどが、数え切れないほどの他の種と共に絶滅した。 そして、わずか 30 万年前に現生の人類が登場した。 ほとんど奇跡的に、彼らはより強力でより俊足の獰猛な捕食動物から生き延び、ヨーロッパやアジアに移動した。最後の氷河期に、後期人類の集団はベーリング海峡を渡り20,000年以上前にアジアから新世界へと向かった。 突然、築 800 年のアナサジインディアンの崖の住居がそれほど古いものとは思えなくなった。黒衣(くろえ)は、宇宙暦(3) のわずか2秒前に出発し、果てしない旅を続けるこの住まいの建築者たちに、暗黙の親近感を感じた。

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Pinwheel Galaxy   Pastel on paper   Akiko Hirano

1.板垣公一は、アマチュア天文学者で、この超新星SN2023ixfは彼の172番目の発見。

2.1974年に古人類学者ドナルド ヨハンソンによってエチオピアで発見された、320万年前のアウストラロピテクス属の女性ヒト科の骨格。

3.宇宙の年齢(138億年)を1年に換算した暦。

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