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False Kiva   Pastel on paper   Akiko Hirano

秋分
平野明子 & Tim Wong

岩棚に登った瞬間、彼女はここが‘あの場所だ’と、わかった。岩がごろごろ散らばった崖の上にある洞窟には、何世紀にもわたる秘密が隠されていた。 下からは見えない洞窟の内部に、石を並べた丸い円が隠されていた。 彼女は、厳粛な儀式に足を踏み入れる侵入者のように感じながら、静かに洞窟の脇に移動した。

 

誰がこの環状列石を造ったのか、何に使われていたのか、誰も知らなかった。 典型的な儀式用の建物(キバ)とは異なり、地下に造られておらず、屋根を支える柱もなかった。彼女はゆっくりと洞窟の周りを歩き、足音が岩壁に響き渡った。この洞窟が、長い間集会の場所として使用されていたことは明らかだった。 後ろの壁には色褪せた印や手形が残っていた。

 

峡谷に反射した陽の光が洞窟を深紅の輝きで満たした。彼女はアーチ型の壁に寄りかかり、地平線に向かって行進する巨人のように砂岩の塔が並ぶ砂漠を眺めた。雲を除いて、その世界は全く静止していた。 あまりにも濃密な沈黙が彼女の肌に重くのしかかった。 太陽は高く昇り、環状列石に暖かい弧を描いた。 冬はすぐそこまで来ていた。 やがて、その弧は洞窟の内側のくぼみに達する。 これは偶然ではなく、この環状列石がここに造られたのには理由があった。

 

砂漠には夏から冬への移り変わりを告げる色鮮やかな紅葉はなく、斜陽の光だけが真冬を前に生命の最後のあえぎを告げる。 秋分の日は、この世と霊界の間のベールが最も薄くなり、その反対側が垣間見える時期である。

 

正午。彼女はその小さな戸口から環状列石の中に入った。 彼女は中央で向きを変え、地平線に向かって目を細めた。 戸口を通して、はるか南にそびえる高い一枚岩の尖塔が手招きしていた。 太陽は一枚岩の真上で天頂に達していた。 彼女に向かって矢じりのように影を落とし、環状列石の狭い入り口を通って彼女とつながった。

 

彼女は太陽に顔を向けて目を閉じた。 温かなピンク色の地形の残光が、不思議な超現実的な絵のように彼女のまぶたに残った。 視界はゆっくりと、形のない朱色の記憶へと消えて行った。 彼女は目がくらくらし、どうやってここへやって来たのか思い出せなかった。でも、それはもう彼女にとってどうでもよいことだった。 再び目を開けたとき、世界は何らかの形で変わってしまっているだろうと彼女は確信していた。 彼女は自分の体が灰になり、花びらが落ちるように地面に散らばるのを想像した。 彼女はその地、そのものになってしまったのだ。                

Afterglow   Digital image   Akiko Hirano

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