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Perfect Kiva     Pastel on paper by Akiko Hirano

残響

平野明子 & Tim Wong

 

西暦1249年冬。アナサジインディアンの長老たちは夜明け前に、赤い岩の峡谷を見下ろす崖の上のアルコーブ(洞窟、空洞)に造られたキバ(地下の儀式用建物)に集まった。彼らは何年にもわたる深刻な干ばつに苦しんでいた。夜明けと共に、彼らは声高く詠唱を開始し、トウモロコシの入った鉢を回し渡していた。太陽が峡谷の縁を越えて登ると、一筋の光がキバの入り口の部分を突き抜けて、反対側の壁のニッチ(小さな窪み)を照らし出した。高官の長老は、両手でトウモロコシをすくってその窪みに置き、降雨を祈り詠唱した。その儀式のすぐ後に、彼らは峡谷から永遠に姿を消した。完璧なキバに彼らの供え物と秘伝が静かに潜んだままの状態で。

 

2019年秋。彼女はユタ州南部の人里離れた峡谷で昨夜を過ごした。何マイルもスリックロック(滑らかな岩)の上や密集した茂みの中を歩いた後にたどり着いた場所で。ジュニパーの木の下にテントを設置し、枯れ葉で澱んだ(濁った)水溜りから水を汲んだ。満月の光でキャニオン一帯は水銀を散りばめたよう、懐中電灯なしで歩き回るのに十分な明るさ​​だった。寒冷前線がその地域を覆っていたが、峡谷は驚くほど穏やかだった。周囲の赤い岩が、日中に吸収した太陽熱を放散しているのだ。彼女はアナサジインディアンがなぜ峡谷に住むことを選んだのか理解出来た。

 

夜明け。彼女は目の前に迫る高い赤い崖の下に立って、大きなアルコーブ(空洞)から奇妙に突き出ている、一対の木製の棒を双眼鏡で覗いている。彼女はその空洞へよじ登る。石の壁の残骸、その後ろにはダイニングテーブルほどもある大きな岩、その岩の表面でトウモロコシを石で磨りつぶしすっかり磨耗して滑らかになった窪みが一列に並んでいる。別の大きな岩は、石器を研ぐのに使い、表面に深い溝が何本も刻まれている。陶器の破片が砂地に散らばっている。無地の物もあれば、幾何学模様が描かれた物もある。後のアーチ状の壁は絵文字と赤い手形で装飾されている。その壁の横は、石と泥で造られた住居で、長方形をした出入り口から円形の広場に通じている。その円の中心に彼女が下の峡谷から見た2本の木の棒が、地下に通じるキバの長方形の開口部から突き出ている。

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Boulder with grinding basins  Photo  Tim Wong

彼女は梯子を降りて真っ暗な部屋に入る。暗闇に目が順応した彼女は、円形の部屋の土間に立っていることがわかった。部屋は固い砂岩を掘り起こして出来た壁と、木と泥で出来た屋根。南の壁に掘られた巾広い台はおそらく儀式用の設備であろうが、今では廃物の貝塚と化している。胸の高さに、狭い棚が部屋全体を囲んでいる。地面の換気塔は汚れやがれきで詰まっており、部屋の空気はよどみ、かび臭い。

彼女は屋根をじっくり観察している。何世紀にもわたってそれがいかに手付かずのままであるか、驚嘆する。彼女は突然の光に目がくらむ。鋭い光線がキバの開口部を突き抜けて部屋を横切り、彼女の目は離れた壁に引き寄せられた。初めて、彼女はニッチ(壁の窪み)、手の平ほども大きくない暗い長方形の穴に気付いた。光でまだ目はくらみ、彼女はその穴がどれほど深く、中に何があるのか見ることが出来ない。意を決して彼女は手を伸ばし穴の中を探り、干からびた一握りのアナサジのトウモロコシの穂軸を引っ張り出した。その瞬間、彼女は遠くの爆音のように深くかすかな詠唱が聞えた、と思った。そしてその後の静寂。彼女はトウモロコシの穂軸を元のあるべき場所に戻した。

彼女がキバから出てくる頃、空は雲で覆われていた。雨の匂いがした。

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Reverberance     Photo  Tim Wong