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Canyonland Sunset   Pastel on paper  Akiko Hirano

カラス
平野明子 & Tim Wong
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しばらくの間、彼女は頭が混乱した。彼女はゆっくりと目を開ける。夜明け前の紫色の空を縁取る、ピンク色の石の塔以外何も見えない。空気は冷たい、でも暖かく感じる。『私はどこにいるの?』不思議な思い。『あれは何よ、岩の上に大きなカラスが座って私を見ている!』これは夢に違いない。彼女は動こうとし、寝袋に横たわっていることに気付く。おかしくなった。『覚えているわ』。

昨日、黒衣(くろえ)は何マイルもスリックロック(滑らかな岩石)と峡谷を歩き、ユタ砂漠(ユタ州南部の峡谷地帯)の奥深く、広大な石の迷路にあるこの場所にやって来た。地平線から地平線に延びる、岩柱が積み上げられた奇妙な岩の塔。誰もいない、動物もいない、風も、音も。太陽が遠くのメサ(岩石台地)の後ろにゆっくり沈む、西の空の鮮やかなオレンジ。 彼女の世界のすべてが黄金色になった。

Raven  Photo  Tim Wong

昨夜、彼女は天の川を見た。彼女が街で見る、かすかな星が霞(かす)んで見える層雲ではなく、何百万もの輝く光。最も明るい星は小さな灯台の光のように燃えている。それらの周りには、より多くの星があり、明るさは劣っているが、それでもはっきりしている。そしてそれらを超えて、暗闇の大空を隅から隅まで満たす、かすかな星の海。時折、旅客機の点滅するライトが星の海を横切り縞模様になる。人工世界を思い出させる唯一のもの。オリオンがゆっくりと夜空を横切って移動している間、彼女はサソリ座の星を数えながら眠りについた。

もう30分程で太陽が昇る。彼女は寝袋から出る。無性に水が飲みたい。彼女は3ガロン(約11リットル)の水袋から一口飲んだ後、歯を磨くための一杯を慎重に測り、アルミポットにインスタントコーヒー用の水を一杯注ぐ。このカラカラに乾燥した土地で、水がいかに重要か彼女は良く知っている。その水袋は、日々の最も貴重な所有物だ。

彼女が岩の上に座ってコーヒーをすすっていると、前の風景が琥珀色の輝きで次第に形を成してくる。遠くの岩柱の上部が輝いてくる。金色の光のカーテンが幕を引き下げるように、一斉に岩の塔をゆっくりと滑り落ち、潮が満ちてくるように、光がセージ(ヤマヨモギ)の平原を超え、彼女に向かって拡がってくる。紫がかった空が明るくなり、ピンクとブルーに変わってくる。そよ風が吹き始め、昇る太陽の暖かさを背中に感じる。

”カア、カア!”彼女は一組のカラスが頭上を非常に低く通過し、翼の鼓動が聞こえ、驚いた。彼らが急降下し、砂漠の上に舞い上がるのを見て、彼らの喜びを感じた。彼女は、この美しい、新しい日が繰り広げられる唯一の証人として、彼らとその秘密を共有した。

”カア、カア!” 『はい、あなたも良い一日を過ごしてください!』

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Canyonland Dawn  Pastel on paper  Akiko Hirano

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