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Green Mask Ruin   Pastel on paper   Akiko Hirano

プリンセス
Akiko Hirano & Tim Wong

「面白い!」黒衣(くろえ)は珍しい岩絵を見つめながら考えた。広いアルコーブ(岩窟)の下の岩盤には、広い台形体と棒状の手足を持つ人型の像が立っていた。赤い岩の上に黄色い粘土で描かれた幽霊のようなイメージは、広大な時間を経て黒衣を見つめ返していた。これらは女性のようで、乳首は赤い黄土(おうど)で強調されていた。人型の像の下には、同じ赤い色の手形があった。これらの岩絵を描いた人々の手だろうか?人物には顔がなかった。どちらも独特の三日月形のヘッドギアを上につけたサイドボブヘヤースタイルの髪型。黒衣はその形に見覚えがあった。100年以上前に、考古学者のチャールズ・マックロイドとチャールズ・グラハムによって、似た形の彫刻が施された木製の装飾品がこのあたりで見つかっていた。ここから東の方にある“ウルフマンパネル”と呼ばれる岩絵の一つに、似た三日月形の装飾品を杖の上に描いた絵があり、おそらく権力と高い社会的地位を象徴していると思われる。黒衣は、まさにアメリカ南西部で最も興味深い考古学的発見物の一つの真上に立っている自分を認識した。

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Pictographs & Handprints  Photo  Tim Wong

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Circles in Kiva   Photo  Tim Wong

約1500年前のこの場所で、バスケットメーカーの一族が、毛布の上に丸まった女性の体の周りに集まり、司祭が愛情を込めて髪をとかし、赤い黄土を顔に、黄色い黄土を女性の全身に塗った。彼らは彼女を毛布でくるみ、赤い崖の下の穴に設置した。彼らは彼女を黄色いカナリアの羽で飾られた七面鳥の羽の毛布で覆い、続いて青い鳥の羽で飾られた別の毛布をかぶせた。毛布の上に、精巧に編まれた楕円形のバスケットを2つ置いた。墓の真上にある赤い岩の上に、司祭は黄色い黄土で二体の人物を描いた。彼らは火を起こし、厳粛な夜通しの儀式を行った。夜明けの最初の光のもと、司祭は赤い黄土の粘土に手を浸し、人物像の間に手のひらを押し付けた。残りの氏族はそれに続き、司祭の手形の下に自分の手形を押した。そしてその女性は、その場で千年以上もの間横たわっていた。カウボーイからアマチュア考古学者に転向したリチャード・ウェザリルが1897年に彼女を掘り起こし、ニューヨークのアメリカ自然史博物館に送るまで。ウェザリルは非常に手の込んだ埋葬に感銘を受け、彼女を“プリンセス”と命名した。彼はアナサジインディアンが母系社会の民族であることを知らなかったのだ。従って、その女性は単なるプリンセスではなく、彼女一族の家長だったのだ。

岩絵の左手に、黒衣は二つの半円形のキバ(儀式用の建物)の残骸を見た。おそらくかなり後期、プエブロIIまたはIIIの期間に建てられ、このアルコーブは何世紀にもわたって、さまざまなグループが続けて使用されていたことを示している。 一つのキバの後壁は木炭で黒く塗られていた。その黒い帯には4つの円があり、水平に赤い黄土で描かれていた。右の二対は逆螺旋を、左の二対はそのまま。アルコーブの遠端の地上高所に小さな洞窟があった。洞窟を小さな部屋に変えるために石の壁が建てられていた。開口部から、黒衣は後壁に濃い赤で塗られた台形の人型の岩絵を見ることができた。その部屋と二つのキバを除いて、他の住居は見えなかった。しかし、アルコーブは多数の岩絵や手形で覆われており、これは住居ではなく儀式用の場所であったことを示唆している。黒衣は、プリンセスがいた場所を警備している二人の岩絵を見ていた。地面には穴しかない。彼女は一つまみの赤い粘土を拾い、その粉を穴に撒き散らした。 “どこに居ようとも、安らかに眠ってください”

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Yellow House Ruin   Pastel on paper   Akiko Hirano

黒衣は峡谷をさらに上り、赤い岩の間で異彩を放つ鮮明な黄色の崖の下に建てられた美しい廃墟に出くわした。黒衣は廃墟まで這い登り、地面全体が黄色い粉状の粘土で覆われているのを発見した。廃墟自体はいくつかの石造りの住居で構成されており、同じ美しい粘土でモルタルが塗られていて、建築者の指の跡がそこに残っていた。建物は非常によく保存されており、屋根は完璧な状態で、優れた技量を示していた。木製の屋根の梁は、草のより糸で細心の注意を払って結ばれていたが、すべての結び目はそのままの状態で残っていた。住居はパティオのように巾広い滑らかな岩盤のテラスに面していた。パティオを横切り、彼女は黄色い粉の上に足跡を残した。彼女は緑豊かな峡谷を見下ろすテラスに座り休んだ。プリンセスの体を覆っていた黄色い絵の具はここから来たのだろうか。

黄土は粘土と酸化鉄の混合物。赤黄土は、赤鉄鉱または酸化第二鉄に由来する。水素と酸素が結合すると、褐(かつ)鉄鉱、黄土になる。黄土は、世界中の先史時代の埋葬儀式で広く使用されている。赤い黄土は、血、生命、そして再生を象徴するかもしれない。多くの文化は、次の旅路に向けての死を介助する精神的な保護者の存在を信じている。おそらく、プリンセスの墓の上の岩絵は、彼女の旅を導き、保護するための精神的な存在を表している。それは単なる空想にしか過ぎないが、黒衣は嬉しくなった。

太陽が峡谷の縁に沈みかけ、暖かな輝きは黄色い崖を金色に変えた。彼女は最後にもう一度“イエローハウス”を振り返って見た。立ち去ろうとした彼女は、ズボンが鮮明な黄色の粉で覆われていることに気づいた。ズボンの粉を振り払う代わりに、彼女は2本の指を舌で湿らせ、粉末を拾い上げ、頬骨全体に叩き付けた。

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