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Touching Stone Gallery
米国ニューメキシコ州サンタフェ

Slickhorn Canyon Pastel on paper Akiko Hirano
神話のキバ
Akiko Hirano & Tim Wong
ユタ州南部の人里離れた峡谷の洞窟の中に、800年前のアナサジインディアンのキバ(儀式用の半地下の建物)が元のままの姿で存在している。それは非常に良く保存されていて、木製の屋根と梯子は当時のままの状態である。黒衣(くろえ)は何年か前に、テリー・テンペスト・ウィリアムズの本でそれについて読み、その話は架空のものだと思った。そもそも、彼女はこれまでに多くの崩れ落ちたアナサジ遺跡を見てきたので、懐疑的に思っていた。それでも、その神話上のキバの鮮明なイメージは、ここ数年ずっと頭に残っていた。
今朝、黒衣は車を峡谷の頂上に置き、森林に覆われたメサの上をトレッキングする。異常な嵐がその地帯を襲っている。風に吹かれた雨とみぞれが彼女の顔を覆う。彼女はフリースのプルオーバーのジッパーを締め、ペースを速め、レインコートを持ってこなかった自分に腹を立てる。ピ二オンとジュニパーの茂みを1時間歩いた後、彼女はスリックロック(滑らかな岩肌)の台場に出る。風はまだ衰えないが、雨は止み、青空が見え出す。彼女の真正面に、巨大な石の尖塔が峡谷のタワーのように立つ。彼女は峡谷の縁に沿いタワーを目印にぐるりと回る。と、すぐにクジラ程もある大きさの二つのキャップロックの上にいる自分に気づく。二つのキャップロックをはさむ狭い隙間が、一段下に降りる道。彼女はその隙間をするっと抜け、広いスリックロックの岩棚に着陸する。

Ruin under Caprock Pastel on paper Akiko Hirano