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Jailhouse Ruin   Pastel on paper  Akiko Hirano

 

平野明子 & Tim Wong

 

13世紀。世界の多くの地域は恐怖に陥っていた。ジンギスカン(成吉思汗)は抑圧的元王朝の初代皇帝になるために中国を侵略した。モンゴル軍は中東とヨーロッパを略奪し、途中残虐行為を撒き散らしながらポーランド、ハンガリー、ドイツを侵略した。半世紀後、孫のフビライハーン(クビライカーン)が日本に目を向ける。 西暦1281年には、14万人の軍隊を乗せた4,000隻以上の艦隊が九州に集結した。新しく発明された大砲と鉄爆弾で武装した侵略者にとって、それは大虐殺と確実な勝利になるはずであった。司令官には知らされていないが、強力な台風が進行中であった。台風は日本海沖に錨(いかり)を下ろしていた艦隊を襲い、艦隊の多くを壊滅させ、日本を救い、カーン帝国のさらなる拡大を止めた。日本人はそれを‘神風’(かみかぜ)、神から授かった風、と呼んだ。

地球の反対側では、アナサジインディアンの世界が別の恐怖に捕らえられていた。何年にもわたる干ばつと社会崩壊が、広範囲にわたって暴力を引き起こしていた。人々は住まいをメサトップ(岩石台地の頂上)から高い崖の岩棚に移した。イーグルアイの一族は彼らのプエブロ(部落)を要塞化した。頑強な木の棒で窓をふさぎ、居住区の上に防御壁を築いた。可能性のある侵入者に警告するために、彼らは住居の上に居住者の家族を表す3つの威圧的な白い盾を描いた。真ん中にイーグルアイは彼の個人的な盾、プエブロに近づく人間を見下ろす一対の薄黒い目を白地の盾に描いた。すべて準備を施しても彼は心配だった。東部からやって来た生存者は、彼らの村全体が虐殺され、一部の犠牲者は侵略者によって屠殺され、食べられたと語った。とても暗い時期だった。

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Jailhouse Ruin   Photo  Tim Wong

西暦2019年秋 。ユタ州南部。日がだんだん短くなってきた。黒衣(くろえ)は峡谷の曲がり角にキャンプを設置した。遠くに、奇妙な白いマークが付いた威圧するような補強岩壁が見えた。簡単な食事の後、彼女はヘッドランプとダウンジャケットをつかみ、補強岩壁の方へ向かった。白いマークは、2階建てのアナサジ遺跡の上の岩壁に描かれた3つの丸い盾であることに気付いた。彼女は何となく不安な気持ちになった、どういうわけか盾は装飾というよりむしろ警告のように見えたから。

遺跡の下の階は、いくつかの部屋のある洞窟。その外壁は石と泥(漆喰)でしっかりと構築されていたが、内部の部屋は耐久性の低い棒や塗り壁で出来ており、わずかにその一部が残っていた。 1つの外側の部屋には、変わった木製の障壁のある窓がある。黒衣はこれがいわゆる「刑務所」(jail house)と呼ばれる遺跡であることがわかった。洞窟の奥に向かって天井は煙で黒くなっている。白い長方形の曲がりくねった幾何学的なデザインが後壁を飾り、その下にはかつての居住者の白い手形の群がある。

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遺跡の下層部を探索した後、黒衣は上層階へのアクセスを探す。 2つの階をつなぐ明らかな開口部は見当たらない。さらに検索した黒衣は、上層階に到達するための危険なわき道を発見した。そこには住居は無く、厚い頑丈な石と漆喰の防御壁で保護された長い廊下だけがある。その壁に掘られた切り込みと覗き穴を使い、防御側は後ろにうずくまり、侵入者に向け矢を放つことが出来る。これは景色を楽しむためのバルコニーではなく、まさに要塞であった。後ろは崖、逃げ道はない。これが彼らのアラモ(砦、とりで)であり、死ぬまで戦う最後の抵抗の場所。

薄い角岩の破片以外、そこには何もない。黒衣は一片を手に取り親指でさわってみた。それは矢じりを作るのに使った残りの破片で、血を流すのに十分な鋭いものだった。黒衣は深く考え込んでしまった。どうしてこの二つ;一見のどかな環境と、被害妄想に近い防御処置、が調和しているのか?。アナサジインディアンは、12、13世紀に、メサトップから防御砦(とりで)に一斉に移動した。彼らは何かを恐れていた。『一体何を恐れていたのだろう?』

考古学者は、その期間(12,13世紀)、広範囲にわたって暴力行為があった証拠を発見した。この遺跡の東にあるSleeping Ute Mountain(ユートインディアンの神聖なる山)近くのキバ(地下の儀式用建物)で、考古学者は、人間の腸内には見られない骨格筋タンパク質、ヒトミオグロビンを含む糞の化石を収集した。これは、‘共食い’の明白な証拠である。信じられないほど衝撃的だった。一方で、彼らが言いようのない残虐行為に直面していた時、広範囲でアジアとヨーロッパが恐ろしい暴力行為に巻き込まれていたことを、黒衣は知っていた。文明は人間の行動を改善するようには見えない。確かに最も凶悪な残虐行為のいくつかは、技術的に最も進んだ国によって犯された;第二次世界大戦はそれを極めて明白にした。おそらく、12、13世紀にこれらの峡谷でどんな恐怖が起こったとしても、異常ではないかもしれない。この人達は他のみんなと同じだ。

太陽がメサの上に沈み、美しい峡谷に長い影を落としたとき、黒衣は気持ちが軽くなったのか、落ち込んだのかわからなかった。寒気が定着した。彼女は石の薄片を地面に弾(はじ)き落とし、ジャケットのジッパーを引き上げ、キャンプに戻る道を探し始めた。

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Canyon Twilight   Photo  Tim Wong