Touching Stone Gallery
米国ニューメキシコ州サンタフェ
Church Rock Pastel on paper Akiko Hirano
幸運な出会い
平野明子 & Tim Wong
1981年7月、アリゾナ州。ツーバシティとメキシカンウォーターの中間、広大な荒涼とした砂漠の真っ直ぐな2車線のアスファルト道路を、スピードを上げて走る小型トヨタセダンは、まるで動いていないかのようだ。どこまでも果てしなく続く道、干からびた茶色のセージブラッシュ(ヤマヨモギ)が辺りにあるだけ。携帯用カセットから流れるバッハの無伴奏チェロ組曲はほとんど聞こえない。黒衣(くろえ)は息苦しい暑さの中で少しでも涼しくと、無駄を知りつつ車の全ての窓を開けて走っているのだ。休暇を利用して黒衣はあちこちの州をドライブしている。突然、かげろうの中から蜃気楼のようにきらめく白い形が幻影のように現れ、急に大きくなり左側の窓を通り過ぎて行った。『何!あれは?』 彼女は、文字通り人里離れた何にもない道端に、大きな四角い箱を見たと思った。速度を落としUターンし調べることにした。
車から熾烈な太陽の中に出た黒衣は、石の重みで飛ぶのを押さえた白いシーツに覆われた折りたたみ式のカードテーブルを見た。彼女が近づくと、シーツをまくり上げて汚れた白い子犬、続いてナバホインディアンの少女2人が現われた!彼らは暑い日差しを避けてテーブルの下に隠れていたのだ。テーブルの上には手作りのアクセサリーが並んでいた。
ズボンの砂ぼこりを手で軽くたたき払いながら、二人の姉妹は彼らにどこか似ている人物を目の前にしてびっくりしたようだ。 「こんにちわ、年はいくつ?」黒衣は尋ねた。 「十歳」と年上の女の子が応える。 「八つ」と小さい方が叫び、両手を持ち上げて8本の指を見せた。 「どこに住んでいるの?」、 「あそこ」、年上の女の子が指差した。黒衣は彼女が示す手の方向を追うが、砂漠しか見えない。「お父さん、お母さんはどこにいるの?」、二人はだまっている。 「犬の名前は何て言うの?」、 「スヌーピー!」小さい方がくすくす笑って叫んだ。
黒衣は販売しているテーブルの上の商品を見て、プラスチックのターコイズビーズをあしらった模造真珠のペンダントが付いたネックレスを、15ドルで買った。 「ありがとうございました!」、年上の女の子は小さな紙袋にネックレスを入れ手渡した。 「ありがとう!」と、黒衣も。 「お父さん、お母さんが迎えに来てくれるの?」、二人は大きく頷いた。
発車する前に黒衣は振り返って、二人がベッドシーツの下に姿を消す前に、スヌーピーの水入れに水を注いでいるのを見た。彼女は少女達をそこに残して行くことが、少し気がかりだった。
『この人達は何者だろう?』何となく馴染みがあるように見えるが、それでいてとても異質なこの二人の少女に、黒衣の好奇心は強く刺激された。