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Woman in Purple Kimono

Pastel on paper   Akiko Hirano

紫の着物姿の女性

平野明子 & Tim Wong

1971年春。毎日午後に少年は授業の後、地元の小学校から帰宅した。急いで帰る必要はなかった。家には誰も居ない事を知っていたから。彼の母親は数年前に亡くなり、父親は仕事で遅くならないと戻って来ない。少年は満開の桜並木が続く狭い小道を歩き、地元の郵便局、お菓子、安価なプラスティックの玩具、諸々の小物を売る古い店を通り過ぎた。少年には興味の無い、木版画を販売するギャラリーの中年女性オーナーは、しばしば手を振って「チビちゃん!」と声をかけ、彼を苛立てた。ある日の午後、少年が通りかかった時、その女性がギャラリーの前に立っていた。彼女は美しい紫色の着物、ベージュと白の帯の身なりだった。「こんにちわ、チビちゃん!」、女性は笑顔で挨拶し、どら焼きが入った袋を差し出した。少年はびっくりしたが、嬉しくて「ありがとうございます!」と、贈り物を受け取り駆け足で帰途に着いたが、ちょっと立ち止まり、振り返って女性の元へ戻った。彼はポケットの中から何か女性にプレゼントするものを探し出し、小さなゴム製の恐竜のおもちゃを引っ張り出した。

 

1981年春。高校卒業の日。式の後、10代の少年は自転車で同じ狭い小道を通り帰途に着いた。道は散った桜の花びらで覆われていた。小物を販売している店にはもはやそれほど気持ちが揺れなかった。彼は年老いた父親を助けるためにどんな仕事を見つけるべきかを考えていた。彼が老舗の木版画ギャラリーに来た時、オーナーが外に出て彼を待っていた。彼女は同じ紫色の着物姿、しかし髪はグレーに変わっていた。10代の若者は自転車から降りて、「こんにちわ!」と、彼女の方へ歩み寄った。「こんにちわ、卒業おめでとうございます!」と、昔と変わらない笑顔で彼を祝福し、きれいに包装された箱を彼に差し出した。若者は彼女にお礼を言い、片手で自転車を押し、もう一つの手で箱を持ち歩いて帰宅した。その夜、箱を開けて父親と一緒に桜餅を食べた。

 

2001年冬。日は短くなり、一日中雪が降っていた。マネージャーは他の職員が去り郵便局を閉めるまで待っていた。彼は葉がすっかり落ちた木々が並ぶ通りを家に向った。ほとんどの店は早くに閉店していた。彼はオーバーコートの襟を立て、吹雪の中、妻と子供が夕飯を待っていることを思い急ぎ足になった。老舗の木版画ギャラリーはしばらく開店していなかった。木製のドアの外に小荷物がぶら下がっているのを見て、彼は驚いた。近づくと、荷物に‘チビちゃんへ’と書かれているのが見えた。一瞬考え、それが自分のためである事に気付いた。コートの下に荷物を詰め込み、深まる雪を踏みしめながら活気よく帰途に着いた。

その夜、荷物を開けた。中には小さなゴム製の恐竜と手書きのメモ : あなたのチビちゃんへ。